
会社がいつまでも古いルールにこだわるのはなぜ?

改善案を出し過ぎると煙たがられるのはなぜ?
みなさんもこのような経験はありませんか?
この記事では、組織が陥りやすい思い込みや変化を嫌う理由について解説します。
人は、自らの慣れ親しんだ事柄について「必要以上に価値を感じやすい」生き物です。
会社も結局は人と人との集合体なので、そうした価値観の偏り(バイアス)がいたるところに生じてしまいます。
本記事は、そんな職場の改善を阻む3つのバイアスを中心とした内容です。
組織のみならず、自分自身も陥りやすいバイアスなので気をつけてね!

それでは続きをどうぞ!
本記事の内容
- 【その1】現状維持バイアス
- 【その2】プロジェクションバイアス
- 【その3】サンクコストバイアス
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【その1】現状維持バイアス

人は、損失回避の思考により、変化による可能性よりも現状維持を好む。
現状維持バイアスは、誰もが陥りやすく、組織や個人の成長の妨げにもなります。
今現在が問題ないのであれば、わざわざ危険を冒す必要はないという心理が働くわけです。
人は得するよりも損失を回避したい
「リスクがある」といわれると、人はどうしても身構えてしまいます。
具体的に例を出してみましょう。
リスクのある状況の例
資産運用を行うと、利益が出るかもしれませんが、損失が出る可能性もあります。
少しでも損をしたくないという感情が働き、結果的に銀行に普通預金や定期預金として預けておく方が安心という思考にたどり着いてしまうわけですね。
こうした損失回避性は、「プロスペクト理論」によって科学的に説明されています。
プロスペクト理論とは
ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏により提唱された意思決定に関わる理論。
同等の利益と損失の場合、人は損失の方を大きく感じてしまう。
そして、プロスペクト理論の一面に「保有効果」と呼ばれる傾向があります。
保有効果とは
リチャード・セイラー氏により提唱された経済的不合理性に関わる理論。
使用目的で保有しているものについて、価値の水準が上がる。
現状維持バイアスは、現状の水準に対して保有効果が働いています。
つまり、現状が安心できているのなら、むしろ変化によるリスクを回避するわけですね。
このような損失回避性などの意思決定のワナについて、詳しく解説した名著をご紹介しておきます。
おすすめの関連書籍
行動経済学の名著であり、組織や周囲に安易に流されないためにも必読の一冊です。
私たちの日常の行動や思考は、無意識のうちに間違った判断をしたりします。
こうしたバイアスの存在を知ることで、職場での当たり前に対して批判的な思考を持つことができるようになりますよ!
組織おける現状維持バイアスの具体例
【例1】不要な仕事
前任者がやっていたからという理由で継続されている事務手続きや作業。
引き継ぎマニュアルの通りに仕事を行えば、たしかに安心かもしれませんが、無駄な手順を踏んでいるなんてよくあるお話。
前任もやっていたことという点が安心感を与えてしまっているため、改善よりも現状維持したくなるわけです。
【例2】恒例行事
式典・定例会議・定期大会・飲み会などの、慣習的になっている行事。
これらは、「The無駄の巣窟」といっても過言ではありませんね。
規模、方法、そもそも開催自体の必要性と改善要素しかありませんが、組織の方針決定を行う層が負のレガシーに重きを置いていると手が出しにくい分野です。
時代の流れに逆行しておらず、本当の意味で必要なことかどうかという視点が大切になります。
【その2】プロジェクションバイアス

多くの人は、今現在の感情に影響された未来をイメージして選択をしてしまう。
プロジェクションとは、「映し出す」ということです。
同じことについての未来を想像する際も、ポジティブな時とネガティブな時とでは、その投影結果に差が出てしまいます。
人は、感情の生き物である
私たちは喜怒哀楽の感情を持っており、ビジネスの場においてもそれは変わりません。
経験豊富な上司であっても、出勤前に家族とケンカをしたということがキッカケで、その日の業務判断が厳しめになるなんてよくある話です。
自分のこととして、次のことを想像してみてください。
ずっと好きだった子へ告白して、交際することになった。
いかがでしょうか。
喜びの感情だけでなく、その先の2人の明るい未来までイメージできた人もいるはずです。
では反対に、こちらはどうでしょう?
ずっと好きだった子へ告白したが、交際を断られた。
先ほどとは打って変わって、明るい未来はイメージしにくかったはずです。
私たちには、未来を正確に当てることなどできません。
そして、確実性のない未来を想像する際、どうしても目の前の感情に影響されやすくなるわけです。
このように、目先の感情が優先された未来を選択しやすくなってしまうのが、プロジェクションバイアスの特徴になります。
組織おけるプロジェクションバイアスの具体例
【例1】先行投資
ここ数年は経営が安定しており、今後も同様に安定した収益が見込めると判断して先行投資する。
自分たちにとって都合の良い状況が続くことは、楽観的な予測の元に追加投資などの選択をしやすくなります。
ところが、専門家である経済評論家ですら的中率が低いのが事実です。
5年10年先どころか、急な収益下落も大いにありえます。
【例2】採用計画
今までがそうだったように、例年通り募集をかければ希望人数の新人を採用できると想定する。
応募が少なくなることを想定していない場合、事が発生した時点でマイナス感情ベースによる次の想定が始まります。
そもそも人口減少や会社に依存しない働き方が増える中、今後も安定した求人応募がある保証などどこにもありません。
【その3】サンクコストバイアス

既に戻ってこない時間や費用にこだわってしまい、合理的な判断ができなくなる。
サンクコスト(埋没費用)とは、事業や行為のために投資した費用や労力のうち、キャンセルしても戻ってこないものを指します。
つまり、過去にこだわることで損失を不要に拡大させてしまうわけです。
不合理な判断をしてしまうのはなぜ?
簡単に言ってしまうと、「もったいない」という心理と、「自己正当化」によるものです。
具体的にイメージしてみましょう。
半年間ほどハマり、数千円ほど課金したゲームアプリがあるとします。
多少飽きたとしても既に課金しているため、辞め時がわからなくなるかもしれません。
仮にやらなくなったとしても、「いつか再開するかも」と削除まではしない人は多いのではないでしょうか?
次の場合はどうでしょう。
教育学部に入学したからには、やはり指導者など教育に関する分野を目指さなければならない。
本当にそうでしょうか?
自分が目指す方向性を決める際、必ずしも過去の選択に一貫性など求めなくてもよいはずです。
周囲の目が気になる気持ちはわかりますが、自分の人生の対して後悔することのないよう選択しなければいけませんね。
これらのように、「自分の最初の選択」を起点としてしまうがゆえに、状況の変化に対して合理的な判断が行いにくくなります。
組織おけるサンクコストバイアスの具体例
【例1】老朽設備更新
時間と費用をかけて改修してきた施設だが、現在は思うように機能していない。
今後使用することを考えると、更なる改修が必要となる。
プロジェクトの進行途中に情勢が変わり、当初の計画ほどの収益が見込めないなどもよくあるお話です。
再検討時点から追加出資を行うことによって、見合った見返りがあるのかどうかという点を合理的に判断しなければなりません。
【例2】お荷物事業部門
長年携わってきた伝統ある事業部門だが、収益は思わしくなく、今後の需要増加も見込めない。
長年続いているということは、関わりのある人間が内外に多く存在します。
思い入れなどの感情を切り離すのは簡単ではなく、結果として経営判断にも影響を及ぼすわけです。
伝統ある事業や投資をやめるという決断は、個人的損失を被る可能性もあり、保守的な結論に至りやすいとも言えます。
こうした個人のプライドやメンツを守ることは、長期的に考えると賢い選択とはいえません。
短期的思考でなく、長期的思考の重要性を教えてくれる一冊をご紹介します。
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成功する人と成功しない人はどういうタイプの人たちで、対人関係でどういった行動をとるのか?
心理学系の論文をベースに、読者の人生をより成功へ近づける行動へのヒントを与えてくれる一冊です!
長期的な視点で判断ができる上司なら、サンクコストについて選択を迫られたとき、自らのプライドを犠牲にしてチームに利益を第一に考えることができます。
組織改善を阻むバイアスのまとめ
さいごに、この記事のポイントを再確認します。
ポイント
- 可能性よりも、現状が良ければそれでいい「現状維持バイアス」
- 目先の感情を通して未来を映し出す「プロジェクションバイアス」
- もったいない精神が引き起こす、不合理な選択「サンクコストバイアス」
これらのバイアスに影響されること自体が、必ずしも悪いことばかりとは言えません。
しかしながら、自らの可能性を狭めるという行為は、社会変化への対応力を下げることになります。
変化や改善といった意思決定には、組織や自分自身を客観的な視点で見直す力が必要不可欠です。
参考文献
- ダニエル・カーネマン,『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』(上)(下),早川書房
- アダム・グラント,『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』,三笠書房
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